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仙台家庭裁判所 昭和59年(少)1462号 決定 1984年7月11日

少年 T・H(昭四〇・三・七生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある瓶一本(昭和五九年押第三二号の一)、白色物質が付着しているビニール袋一袋(同押号の二)、ラッカーシンナー一六リットル罐一個(同年押第三九号の一)、透明な液体が少量入つているビニール袋一袋(同押号の二)、ゴムホース二本(同押号の六・七)及びドライバー二本(同押号の八)を没取する。

昭和五九年(少)第六八二号事件のうち、毒物及び劇物取締法違反については、少年を保護処分に付さない。

理由

(罪となるべき事実及び虞犯事由)

少年は、

第一  昭和五八年一二月二六日午前一時ころ、仙台市○×丁目×番○○公園駐車場に自己所有の普通乗用自動車(宮××ぬ××××号)を駐車し、同車内において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であつて、トルエンを含有するシンナーをビニール袋に入れて、みだりに吸引した

第二  別紙犯罪事実一覧表記載のとおり、六回にわたり単独又は同表共犯者欄記載の共犯者と共謀のうえ、同表日時欄記載の日時に、同表場所欄記載の場所において、同表被害者欄記載の被害者の所有又は管理する同表被害品欄記載の金品を窃取した

第三  Aと共謀のうえ、ガソリンを窃盗しようと企て、昭和五八年一二月三日午前一時ころ、仙台市○○字○○××の××○ハイツ前路上において、同所に駐車中のB所有の軽四輪自動車(宮××い××××号)の給油口をこじ開け、ガソリンを抜き取ろうとポンプを差し込んだが、同車両のガソリン残量が少量であつたため、その目的を遂げなかつた

第四  虞犯により昭和五九年三月七日から仙台保護観察所の保護観察に付せられたにもかかわらず、同月一七日には家出をして保護観察を忌避し、家出中、パチンコに熱中して無為徒食し、非行歴を有するC、D、E、F、G子らと不良交友して、宮城県多賀城市内の公園や同県宮城郡○○町内の○○公園などで数回にわたり不良仲間らとシンナー吸引を行い、更に、暴力団○○会○○事務所(宮城県塩釜市○○町××の××○○ビル内所在)に宿泊・出入りをしていたところ、同年六月一八日暴力団○△家○○分家○○一家組長Mの葬儀に参列すべく車に同乗して会場に到着したが、その際、会場の駐車場が満車であつたため、他の駐車場へ車を入れるように指示を受け、その旨実行しようと車を運転中、警察官に職務質問を受け、家出中であることが発覚し、保護されたものであり、このまま放置されるならば、将来毒物及び劇物取締法違反、窃盗、恐喝などの罪を犯すおそれがある

ものである。

(法令の適用)

第一の所為(シンナー吸引)につき 毒物及び劇物取締法二四条の三、三条の三

第二の所為(窃盗)につき 刑法六〇条、二三五条(但し、番号一及び五の各所為については、同法六〇条を除く。)

第三の所為(窃盗未遂)につき 同法六〇条、二四三条、二三五条

第四の所為(虞犯)につき 少年法三条一項三号イ、ロ、ハ、ニ

(一部不処分の理由)

少年法四六条は、犯罪少年に対して保護処分がなされた場合についてのみ一事不再理効を認める旨の規定をするにとどまるが、虞犯少年に保護処分がなされた場合についても、一事不再理効の効力が及ぶ範囲を事実の同一性により明確に限定する配慮をするならば、別異に考える理由は全くないので、保護処分を受けた虞犯事由との間に事実の同一性が認められる範囲で一事不再理効を肯定すべきである。

したがつて、少年の当審判廷における供述、仙台保護観察所長作成の通告書、仙台家庭裁判所の決定書の謄本によると、少年は、昭和五九年(少)第六八二号事件のうち毒物及び劇物取締法違反の事実を含む虞犯事由について、昭和五九年三月七日仙台家庭裁判所で仙台保護観察所の保護観察に付する旨の決定の言渡しを受け、同決定は二週間の経過により自然確定したことが明らかであるから、少年法四六条を類推適用して、同法二三条二項に従い、上記事実については少年を保護処分に付さないこととする。

(処遇の理由)

少年は、昭和五六年八月三一日宮城県立○○高校農業土木科二年生中退後、転々としつつも働いていたが、昭和五八年夏以来、不良交友により急速に非行化し、シンナー吸引、窃盗を繰り返し、家出・放浪の挙げ句暴力団○○会○○事務所に出入りを始めるなど遊び中心の徒食生活をするに至つていたため、虞犯事件として仙台家庭裁判所に係属し、観護措置を経たうえ、前記のとおり昭和五九年三月七日保護観察決定の言渡しを受けたものである。しかしながら、同決定後就職することもなく、前記虞犯事由のとおりの非行に及んだものである。

少年は、両親稼働による監護不全のため社会規範がしつけられなかつたと思われるところ、そのような成育歴に加え、自己顕示欲を満たすべく不良交友を繰り返す中で、刹那的享楽にふける遊び中心の生活態度が身に付いてしまつていると考えられる。少年は、上記保護観察決定後、際立つて大きな非行を行つてはいないが、物事を自分勝手に割り切つて、生活目標を持たぬ怠惰な生活に身をゆだね、保護観察を忌避し、あまつさえ暴力団との接触を保つていたものであり、その規範意識と克己心の乏しさは著しいと言わざるをえない。

このような少年に対して、両親は観護能力を喪失しており、有効な方策を見い出すことができず、拱手傍観しているという状況にある。

したがつて、少年の更生を図ることについては、施設に収容して長期にわたる生活訓練を施すことにより、健全な生活リズムを回復させ、主体性を養成していくことが是非とも必要である。そして、退院後においては、従前どおりの不良交友を繰り返さないように指導をすることも併せて配慮すべきであると考える。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、没取につき少年法二四条の二第一項二号、二項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 大門匡)

別紙 犯罪事実一覧表<省略>

〔参考一〕 昭和五九年(少)六八二号事件のうちの毒物及び劇物取締法違反の送致事実

被疑者T・H、同D、同E等は共謀して、昭和五八年一〇月二七日午後五時二〇分ころ多賀城市○○×丁目××番××号先路上において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であつてトルエンを含有するシンナー様の液体をビニール袋及び空き缶に流し込み、これをみだりに吸入したものである。

〔参考二〕 昭和五九年三月七日仙台家庭裁判所でなした仙台保護観察所の保護観察に付する旨の決定の非行事実

少年は、これまで非行歴がないものの現在家出中であり、塩釜市内の暴力団○○会の○○事務所に出入りしている者であるが、昭和五八年九月ごろから昭和五九年二月一二日までの間家出し、この間塩釜市、多賀城市の友達であるA(一六歳)、C(一六歳)などの家を転々と泊り歩き

ア 昭和五八年一〇月二七日多賀城市○○の路上で、無職D(一七歳)、店員E(一七歳)と共にシンナーを吸入し

イ 昭和五八年一二月二三日友達である無職A(一六歳)、無職C(一六歳)と共に○○町○○海岸でシンナーを吸入し

ウ 昭和五八年一〇月ころから昭和五八年一二月ころまでの間多賀城市や塩釜市内の路上や公園で前記友人らと共に前後一〇回くらいにわたつてシンナーを吸入し

エ 昭和五八年一二月下旬ころから現在まで塩釜市○○町××番××号○○ビル四階暴方団○○会の○○事務所に出入りし、最近は同事務所に寝泊りして電話番をしているものである。

以上の行為は少年法第三条第一項第三号のイ、ロ、ハ、ニに該当し、少年をこのまま放置すればその性格等に照らしてさらに窃盗、暴行、恐喝等の罪を犯すおそれのある少年である。

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